理事長挨拶

発酵研究所の研究助成について

公益財団法人発酵研究所(IFO)
理事長 中濱 一雄

中濱一雄

 発酵研究所は、60余年にわたって微生物株保存機関として学術および産業に有用な微生物の収集・保存・分譲業務を行い、国内外の微生物の研究を支援してきましたが、2002年7月に研究者と約15,000株の微生物株を独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)に移し、保存機関としての使命を終えました。以後、発酵研究所は、これまで培ってきた微生物株保存事業の精神を生かすべく、微生物の研究を対象とする研究助成事業を2003年に開始しました。
 近年、微生物の研究では科研費やその他の助成金を獲得しにくい状況にあり、微生物の研究を行う研究室や研究者は少なくなっています。大学や企業ではバイオ分野の研究には流行があります。1970年代までは微生物の研究が全盛期でありましたが、その後、約15年ごとに遺伝子工学、ゲノム創薬、再生医学(iPS細胞)の順で研究が注目されるようになり、それに伴って微生物の研究がやや下火になったようであります。しかし、2015年には大村 智博士がエバーメクチンの発見とその開発で、2016年には大隅良典博士が酵母を用いたオートファジーの仕組みの解明で、ノーベル生理学・医学賞を受賞され、微生物の研究が再認識されるようになりました。
 わが国はアミノ酸・ヌクレオチドの発酵生産や微生物酵素による物質生産で世界をリードしてきました。コレステロール合成阻害剤スタチン、免疫抑制剤タクロリムス、αーグルコシダーゼ阻害剤ボグリボースは本邦の製薬企業の発酵技術で開発・実用化されており、今後も新規生理活性物質の発見と開発に期待したい。最近ではプロバイオティクスを対象とした腸内細菌の研究が盛んで、新聞やテレビでよく報道されております。また、バイオエネルギーの生産やプラスチックの環境対策に微生物の利用が期待されております。学術的な観点では単細胞の微生物は生命の基本単位であり、生命現象を明らかにするためにはモデル生物として大腸菌や酵母などの微生物を用いなければ解決できないことが多い。地球上の物質循環およびエネルギー循環において微生物の寄与は計り知れないものがありますが、これまでに自然界から分離培養された微生物は全体の1 % 以下で、残りのほとんどは難培養微生物と言われております。難培養微生物を分離培養し、ゲノム解析などを活用することによって微生物の新たな能力を見出すことができれば、微生物の研究と利用が飛躍的に進歩すると思われます。微生物学はバイオサイエンスおよびバイオテクノロジーの基本となる重要な分野であり、その研究を財政的に支援することは大きな意義があると考えます。
 発酵研究所の研究助成には、一般研究助成、大型研究助成、若手研究者助成、研究室助成および学会・研究部会助成があります。研究課題は、1「微生物の分類に関する研究」、2「微生物の基礎研究」および3「微生物の応用研究」としております。
 発酵研究所は、国がやらない、やれないような特色ある研究助成にしたいと思っております。例えば、微生物の研究にとって重要であるが、地味で目立たず、あまり評価されないために科研費などの競争的資金を獲得しにくい「微生物の分類に関する研究」および真理の探究を目指した「微生物の基礎研究」に重点的に助成金を支給しております。
 研究助成の対象としては、独創的、チャレンジングで夢のある研究の応募を歓迎します。
 助成を受けた研究の成果は、毎年6月に千里ライフサイエンスセンターにて開催される助成研究報告会で発表され、助成研究報告集 IFO Research Communications に掲載されております。
 研究助成を通して微生物の研究の進歩・発展に寄与したいと思っておりますので、ご指導・ご支援の程、よろしくお願いいたします。