理事長挨拶

微生物を愛する研究者とともに歩む、
発酵研究所による研究助成の深化

公益財団法人発酵研究所(IFO)
理事長 原島 俊

原島 俊

 このたび、公益財団法人発酵研究所の理事長を拝命いたしました原島 俊(はらしま さとし)でございます。中濱一雄前理事長をはじめ、歴代の理事長が積み重ねてこられた輝かしい業績と誇り高き伝統を継承し、その名を汚すことのなきよう、誠心誠意職責を果たしてまいる所存です。
 現在、我が国では約5,500の公益財団法人が認定されておりますが、当研究所は1944年の設立以来、80年の歴史を刻んでまいりました。これは、公益財団法人としても第4番目の長い歴史を誇るものであり、発酵研究所がいかに先駆的な役割を担ってきたかを物語っております。
 設立当初より60余年にわたり、当研究所は微生物の保存機関として、学術・産業の両面に資する微生物の研究・収集・保存・分譲事業を通じ、国内外の微生物学および生命科学の進展に寄与してまいりました。2002年には、これまでに蓄積された約15,000株の微生物を、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)傘下のNBRC(National BioResource Center)に移譲いたしましたが、その精神は今なお脈々と受け継がれ、以降20年以上にわたり、微生物に関する研究への助成事業を継続して行っております。
 現在、応募型の助成事業を行う公益財団法人は約2,500に上りますが、その中でも当研究所は、年間約4.5億円の研究助成を実施し、規模の面でも国内上位に位置しております。とりわけ、微生物学、それも微生物分類学に重きを置いた助成を行う公益財団法人は、世界的に見ても極めて稀有な存在であると自負しております。
 ここで少し、私自身について触れさせていただきます。私は、我が国で初めて工学部に設置された、大阪大学工学部の工業微生物遺伝学講座で、恩師大嶋泰治先生のご指導のもと「遺伝学」の研究に携わり、以来半世紀にわたり、微生物、特に酵母を用いた遺伝学の研究に従事してまいりました。微生物学の全領域を網羅する知見には及ばぬ身ではございますが、生命科学の進展における微生物の貢献、そして未だ人類が手にしていない未知の微生物の存在に思いを馳せるとき、微生物研究の意義と未来への期待に心が高鳴るのを禁じ得ません。
 生命の起源は、およそ40億年前、原始の海に誕生した単細胞の微生物に始まるとされています。その後の長大なる進化の歴史を経て、人類を含む多様な生命が育まれました。その中にあって、微生物の研究には、生命進化の謎に迫るロマンがあり、限りない探究の可能性が広がっていると確信しております。
 かつて生命科学の研究は、遺伝学・生化学・分類学といった明確な学問領域によって構成されてまいりました。しかし近年では、次世代シークエンサーに代表される分子解析技術や、人工知能(AI)を駆使したタンパク質の構造予測技術、革新的なバイオイメージング手法など、学問の枠を越える新たな技術が急速に発展を遂げています。これらの先進技術と融合することで、微生物研究はこれまで想像もできなかった発見をもたらすことでしょう。
 発酵研究所は、微生物を研究対象とした独創的で挑戦的、かつ夢に満ちた研究を助成することにより、生命科学の新たな地平を切り拓き、その進展に貢献してまいります。どうか引き続き、皆さまのご指導とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。